標高1400mを超える森に住んでいる人間は、日本ではそれほど多くないと思います。そこにいるからこそ体験していることも、時々書いていこうと思います。大半が、ふだん目に見えない・感じられない世界のことですが、素直に見たまま体験したままを綴っていくつもりです。ここにいるとそうした世界が日常なのです。どこからどう書いても怪しいだろうと思っていたので文章にするのを迷っていましたが、「もう、いいや。書いちまえ」って気持ちになりました(笑)。
精霊たちに会ったことがあります。いや~、いきなりこう書くと、引きますか(笑)?
ぺーシングという言葉を知っていますか。心理学用語で、相手と信頼関係を築くべく使うテクニックのことです。相手の言葉づかい・しぐさなどに自分のそれを合わせることで心理的隔たりをなくしていくのです。例えば相手がお茶を飲んだら自分も同じようにお茶を飲む、というのもぺーシングの一種です。
森の中にいると、無意識のうちに、自然(動物を含む)の発する様々な音・匂い・光・風といった自分以外のすべてにぺーシングをして暮らしているのでしょう。すると、自然との隔たりが薄れ、物質としての肉体の感覚も消え、まるで自分が木々の葉の一枚になったように、光を感じ、風の音を聞いている瞬間があります。
その感覚を保ち続けたまま、散歩をしたときでした。
春の芽吹きの季節で、新緑の森は明るい陽光に満たされていました。
柔らかく降り注いでいた陽光が、突然目の前で無数の細かい光の柱に割れていったと思うと、上下左右からふわ~っと私の体を包みこんできたのです。頭のてっぺんからつま先まで温かく細かい粒子に包み込まれながら、同時に体内を通り抜けていく、何万もの生き物たちの感触がありました。
紛れもなく、ちいさな生き物たちが思い思いにうごめきながら次々と体内を貫いて通っていく感覚でした。こんなことははじめてでした。彼らからは生命の喜びがいっせいに伝わってきました。私は、幸せすぎてこのまま死んでもいいと思いながら、他に誰もいない森の底で、(おそらく)精霊たちにしばらく身を預けていたのです。彼らがすべて通り過ぎるまで。